ウェストコースト通信
第1回「エルドラードの夢の跡から」

[ZDNet Japan掲載] 2001年8月17日
小田康之

 サンフランシスコの町並みは,美しい。ここポトレーロ・ヒルというダウンタウンの南に位置する小高い丘の上から一望する町並みは,サンフランシスコ湾に掛かるベイブリッジの堂々とした姿とともに,より一層輝いて見える。

 ふと見上げると,気球が青い空を背景に,ゆっくりと進む。派手なオレンジ色の気球には,"monster.com"の大きな文字。そう,求職・求人ウェブサイトのモンスター・ドット・コムである。めっきりと数が減ったネット企業の広告の中でも,依然と目を引くのは,求職・求人サイトの広告だ。空に浮かぶモンスター・ドット・コム,市バスの脇腹によく目にするブラスリング・ドット・コム。いずれも仕事を求める人々にアピールしようと必死だ。

 このサンフランシスコ,そしてベイエリアと呼ばれるサンフランシスコ湾一帯の地域を中心として,1990年代にゴールドラッシュが起こった。ベイエリアの南に位置するシリコンバレーには,全米から,さらには世界中から人が押し寄せた。インターネットという金鉱脈に引き寄せられるように。

 今を遡ることおよそ150年,サンフランシスコには,同じように全米から,そして世界中から人が押し寄せた。黄金色に輝く鉱物が,シエラ・ネバダ山脈の麓で発見されたのだ。このエルドラード(黄金郷)目指して,米国東海岸,南米,オーストラリア,果てはアジアからも,次々と人がやってきた。その玄関口となったサンフランシスコには大量の船が着いた。

 高層ビルがそびえ立ち,現在ファイナシャル・ディストリクトと呼ばれているサンフランシスコの中心街の一角は,150年前のゴールドラッシュの時代には,サンフランシスコ湾の一部だった。ここには,世界中からやってくる船が接岸した。船の乗組員までもが,黄金を目指したため,打ち捨てられた船の数々で満ちあふれたといわれる。

 世界中から人を引き寄せ,サンフランシスコを瞬く間に多民族の都市として成長させたこのゴールドラッシュも,付近の金の枯渇とともに10年を経ずして,ほとんど過去のものとなっていった。

 つい先日の7月18日,当地でインターネットのアカデミー賞ともいわれるウェビー賞の授賞式が開催された。1997年から始まったこの賞に,これまでノミネートされた幾多のウェブサイトも,今では姿を消してしまった。イートイズ,ペッツ・ドット・コム,ガーデン・ドット・コムなどなど。つい先日も,このベイエリアを本拠とするオンラインの食料雑貨販売会社であるウェブバンが,ついに連邦破産法第11条を申請し,営業を停止した。金鉱脈を掘り当てたかのように讃えられ,ウェビーの栄誉にも浴した多くの企業が,今や跡形もない。

 今年のウェビー賞の受賞者を見てみると,コミュニティー部門では,クレーグズ・リスト(www.craigslist.com)の名前が見える。

 エルドラードは,やはり現代にも存在しなかったのだろうか。革命といわれたインターネットへの熱狂は,所詮はバブルで,実体のないものだったのだろうか。自らも関わってきたネットビジネスは,今後どのように展開されてゆくのだろうか。

 そんなことを考えながら,ここサンフランシスコから当地の様子を綴ってゆきたい。